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      ケムの日々是好日

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フードマイル

   【地球に優しい買い物上手:フードマイルを考えよう!】

    台所は自然(大地)と人をむすぶ接点です
        (『婦人の友』2004年3月号掲載、草稿) 古沢広祐


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   一杯のソバも地球規模の時代に 

 今日の日本は、世界中から資源や食料を入手して物質的には溢れんばかりの豊かさを享受している。
その豊かさの反面では、大量の廃棄物が海や山を埋め尽くすような事態が生じている。
ありとあらゆる食べ物を世界中から入手し、飽食のかぎりをつくせる状況の中で、私たちはかえって
モノや食べ物を粗末に扱うようになっているのではなかろうか。

 ほんの少し昔を思い起こすと、おそなえもの:供物(くもつ)といった風習にみられるような食べ物を
神聖なものとして扱う行為が日常的に行われていた。
食べ物とは、人の世界と神の世界を結び付ける神聖な意味がこもったものだったのだ。
そして、田の神、山の神の信仰にみられたように、農業もまたそうした宗教的な意味あいを強く持っていた。
その根底には、食べ物や農業を通して人間は深く自然の力を実感し、自然と共感しあい、交流しあう豊かな
感性を育む世界があった。

 地球(大地)と人間は、”食”と”農”という行為(回路)を通してつながっているのであり、人類が
その命のかてを大地からくみ取って、それらを調える場所が「台所」だといってよかろう。
一昔前の台所は、地域の食材を調理していたことから、食と農は見える範囲でつながっていた。
いわゆるスローフード、地産地消(地域でとれたものを地域で消費する)があたりまえだったのである。

 しかし今日、大地と人との距離はきわめて遠のいた。世界中から容易に安いものが手に入る時代となり、
まさしく食卓はグローバル化してしまったのだ。
「信州そば」を食べても、その食材の元は、出汁の水と昆布以外は遠くカナダ(ソバ粉)やアメリカ(小麦粉)、
中国(ネギ、醤油のもとの大豆)、塩(メキシコの岩塩)から運ばれてたものでなりたっている。

   フードマイルで環境負荷を計ってみると

 食材の運搬距離が遠くなることは、食の安全への不安のみならず移動に伴うエネルギー消費により
二酸化炭素が放出して地球温暖化に多少なりと影響を与える側面がある。
日本の今の姿を物資の運搬量で見てみると、世界の輸出入貨物量(船)のうちの全体の約20%ちかい物資(重さ)
が日本一国に流入している。
全陸地面積に占める割合でわずか0.3%、人口比で2.3%にすぎない日本に大変な物資が流入しているのである。
約8億トンの流入規模に対して、総輸出量(流出)は約1億トンにすぎず、焼却・減量部分や再利用を考慮しても、
いわば過剰蓄積状態で、結果的には大量廃棄のゴミが貯まっている状態なのである。

 日本という国を物質出入りのバランスで見た場合、その健康状態はきわめて歪んだ状態にあると言ってよかろう。
それは、食の面でもそのまま当てはまる。
本来、食というものに関しては、「身土不二」(身体と土はつながったもの)を大切にして「四里四方」(近辺の地域)
で「旬の味」が重視された。
実はこの思想は、自分自身の健康面のみならず環境への悪影響という点においても、現代的意味が加わって
あらためて再認識されるべきだと思われる。
 ここで、ヘルシーな健康食メニューのひとつ「カボチャの煮物」を例にとって、その環境への負担を考えてみよう。
かつて、季節が正反対の南半球のニュージーランドのカボチャが輸入されるようになった時代から、最近では安い
メキシコ産が日常的に店頭をかざるようになった。
食材がどのくらいの距離を運ばれているかを表す言葉に「フードマイル」(重さ×距離)という計算方法があるので、
カボチャ(100g)のフードマイルを見てみよう。
ここで東京を起点に、カボチャの産地が群馬県産、北海道産、メキシコ産の場合の距離を比較すると、
それぞれ117.1Km、831.1Km、11319Kmとなり、距離間の比は1:7:97の差がある
(理科年表、都道府県庁間距離・首都間距離による)。
フードマイルは、距離に重さを掛け合わせたもので比率は同じになるが、移動・運搬に伴う二酸化炭素の排出量を
計算してみると、2.5g(トラック輸送)、17.4g(トラック輸送)、57.7g (船輸送)となり、運搬手段で
多少軽減されるがその比率は1:7:23の差となる。
同じ料理であっても、産地の違いによる移動距離ひとつで環境負荷に大きな差が出てしまうことがわかる。

   エコダイエットで地球とつながる

 これからの台所とは、食材を調理するにあたって、たんに栄養評価からだけでなく、どれだけの距離を
移動してきたか、どれだけエネルギーを消費して生産・運搬されたか、どれだけの耕地面積を必要としたか、
といった指標で評価して環境影響を考えるエコロジカルな食のあり方(エコダイエット)を重視する場に
なっていくのではなかろうか。
 生産に必要な耕地面積という指標から計算すれば、例えば現状ベースの世界の農耕地の生産で、アメリカなどに
代表される大量輸送・大量消費する飽食の食生活(肉食過多で大量廃棄型食生活)を世界中の人間がとった場合、
大ざっぱに言って、世界人口は現状の半分も養うことはむずかしい。
季節感を忘れ、地域の農業を見失い、風土に育まれた伝統的な料理や食事の知恵から切り離された不自然な
”現代的”食生活が向かう方向は、自分の健康ばかりでなく、地球の環境にも過大な負荷をかけてしまうのである。

 食と農を通じてのライフスタイルの見直し、すなわち、自分の生活をスリムに健康的にしていくとともに、
外なる環境負荷をも減らして地球に対する環境保全となるエコダイエットやエコクッキングといった消費のあり方の
再構築こそ、限られた資源・環境の世界のなかで安心して暮らすための鍵をにぎっているのである。

 <注>:CO2排出係数:運搬手段による1トン当たり、1キロの移動で出てくるCO2の重量、
     鉄道:25g、船:51g、トラック:210g  

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